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DESIGNER'S INTERVIEW

籐を“モダンファニチャー”へ。建築家・榊田倫之が語る TSUZURI の思想

※撮影協力 : 清春芸術村 ゲストハウス「和心」

新素材研究所は、日本の古い素材や工法、そして高度成長の中で淘汰されてきた“日本の良きもの”に、もう一度光を当てる取り組みをしています。過去の価値をそのまま保存するのではなく、現代の美意識で捉え直し、空間として再構成していく。その姿勢は、事務所名にもなっている「新素材研究」という考え方であり、設計のスタイルでもあります。

その延長線上で生まれたのが、籐家具を現代の家具へ再編集したTSUZURI です。どこか懐かしい籐家具を、いまの空間に通用する“モダンファニチャー”として成立させる。今回の挑戦には、素材の魅力だけでなく、歴史への眼差しと、建築家ならではの視点が息づいています。

なぜ「籐」なのか——魅力と扱いの難しさ

籐は、軽やかさとしなやかさを併せ持ち、色合いや風合いによる独特の温かみが空間に穏やかな印象を残します。その性質は、木とも金属とも異なる存在として、長く愛されてきました。

一方で、扱いは決して容易ではありません。溶接ができず、接合には巻くことが必要で、成形するには高い技術が求められます。それでも榊田氏が籐に惹かれたのは、鉄のように曲げられるのに鉄ではなく、木のような温かみを持つという、素材そのものの相反する特徴が、強い魅力として立ち上がるからでした。

さらに籐は、一般に成長が早いとされ、適切に管理された採取であれば再生しやすい素材としても知られています。木材と比べても短いサイクルで供給できる可能性があり、サステナブルな視点でも注目される素材です。自然素材がもつ柔らかな表情と、現代の暮らしに求められる合理性。その両方を備え得る点も、籐をプロダクトの素材として見つめ直す理由のひとつになっています。

籐家具の歴史を辿ると、いま扱う意味が見えてくる

籐家具の背景には、日本の近代化と暮らしの変化が重なっています。明治期、西洋文化が入ってきたとき、洋館や迎賓館、ホテルなどに籐家具が置かれたことが、ひとつの起点になりました。その後、大正ロマンの時代には一般へと広がり、暮らしの象徴として親しまれるようになります。昭和初期には大量生産が本格化し、日本が籐家具をつくっていた全盛の時代もありました。

しかし1980年代以降、籐家具の生産は一次産業が盛んな地域へと移り、国内の文化は次第に縮小していきます。さらに意匠権が十分に保護されなかったことで模倣品が増え、結果として籐家具の文化そのものが淘汰されていきました。榊田氏は、そうした歴史を踏まえたうえで、いま籐家具を考えることに意味があると語ります。

「籐はどうしても東南アジアの土着性や地域性を帯びやすい素材でもあります。だからこそ、日本の建築家・デザイナーとして、いまの時代に合うユニバーサルな形で籐家具を考え直し、モダンファニチャーとして昇華できないか」

その問いが、TSUZURIの原点になっています。

TSUZURI——“つづる”という日本の形から生まれた椅子

TSUZURIという名前は、日本のかたちを呼ぶ言葉から導かれました。「つづり」には、結合する、縫い合わせるという意味があります。本の端部を縫い留める行為を“綴る(つづる)”と言うように、複数の要素をつなぎ合わせてひとつの形をつくる言葉です。

榊田氏が着想源として挙げるのは、よしずやすだれのような存在です。固いものを柔らかいもので縫い合わせ、一つの大きなものを構成していく。TSUZURIもまた、有機的なフォルムが体に沿いながら包み込むように“つづられ”、籠状の形へと成形されていきます。籐という素材のしなやかさを、形の成立そのものへ結びつけていく発想がここにあります。

木が支え、籐が包む——二層構造がつくる佇まい

TSUZURIの設計で特徴的なのは、木の部分と籐の部分を二層に分けて構成している点です。木は土台として支える意味を担い、籐はしなやかに体を包み込み、受け止める役割を担う。素材の特性を曖昧に混ぜるのではなく、役割を分けることで、それぞれの美しさがより明確に浮かび上がります。

木部は外側を直線的に、内側を曲線的にすることで、輪郭がはっきり見えるように設計されています。その一方で内側には、籐との相性を考えたやさしい線が潜み、触れたときの感覚まで整えられています。籐部は、編みのピッチや編み方によって表情が決まり、軽やかな陰影が生まれます。

なかでも榊田氏が重要なエレメントとして挙げるのが、ヘッドレストを支える支柱のディテールです。籐がしなやかで強い素材であることを、そのまま形として主張する部分であり、TSUZURIの印象を決定づけています。ヘッドレスト端部の“終わり方”も、最後まで試行錯誤したポイントでした。籐は溶接したり、金属のように接合していくことができません。棒状のものを分岐させ、つくりながら納めていく。その難しさがあるからこそ、端部の納まりは造形の美を左右する重要な部分になります。

撮影協力 : 清春芸術村 ゲストハウス「和心」

畳から始まり、現代の空間へ

TSUZURIの発想は、「畳の部屋に合う籐家具をつくれないか」というところから始まりました。昭和前半には、和風の空間に合う良質な籐家具が多く存在していた一方で、いまこの時代において、モダンファニチャーとしての現代性を備えた籐家具は決して多くない。だからこそ、和の美意識を持ちながら、現代の暮らしに通用する籐家具を考えてみたい、その思いが、形の起点になっています。

しかし、完成したTSUZURIは、和空間にとどまりません。畳の部屋に置いたときの落ち着きはもちろん、現代空間に合わせても自然に馴染み、洋家具と合わせても相性が良い、和洋折衷を越えたラウンジチェアとなりました。

畳の空間や和洋折衷のダイニングはもちろん、モダンな住空間やラウンジにも。静かな背景を持つ空間ほど、籐の線がつくる陰影や、木と籐が交差する輪郭が美しく際立ちます。異なる文化の家具が混在するインテリアの中でも、TSUZURIは過剰に主張せず、空間の密度を上げる一脚として機能します。

※榊田氏の「サカキ」は、木偏に神と表記します。

TSUZURI ラウンジチェア詳細はこちら

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